朝霧がそのときに   ちょうど消えかけて
 一本の栗の木は    後光をだしていた
 わたしはいただきの  石にこしかけて
 朝めしの堅ぱんを   かじりはじめたら
 その栗の木がにわかに ゆすれだして
 降りて来たのは    二疋の電気|栗鼠《りす》
 わたしは急いで……」
[#ここで字下げ終わり]
「おいおい間違っちゃいかんよ。」山猫博士がいきなりどなりだしました。
「何だって。」ミーロはあっけにとられて云いました。
「今朝ワルトラワーラの峠に電気栗鼠など居た筈はない、それはいたちの間違いだろう。もっとよく考えて歌ってもらいたいね。」
「そんなことどうだっていいんだい。」ミーロは怒って壇を下りました。すると山猫博士が立ちあがりました。
「今度は我輩《わがはい》うたって見せよう。こら楽隊、In the good summer time をやれ。」
 楽隊の人たちは何べんもこの節をやったと見えてすぐいっしょにはじめました。山猫博士は案外うまく歌いだしました。
[#ここから2字下げ]
「つめくさの花の 咲く晩に
 ポランの広場の 夏まつり
 ポランの広場の 夏のまつり
 酒を呑まずに 
前へ 次へ
全95ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング