ばらくあちこち見まわしていましたが、俄かに向うへ走って行きました。ファゼーロはしばらく経ってぴたりと止まりました。
「あ、こいつだ、そらね。」
見るとそこにはファゼーロが作ったらしく、一本の棒を立ててその上にボール紙で矢の形を作って北西の方を指すようにしてありました。
「さあ、こっちへ行くんだ。向うに小さな樺《かば》の木が二本あるだろう。あすこが次の目標なんだよ。暗くならないうちに早く行こう。」ファゼーロはどんどん走り出しました。
ほんとうにそこらではもうつめくさのあかりがつきはじめていました。わたくしはまたファゼーロのあとについて走りました。
「早く行こう、早く行こう、山猫の馬車別当なんかに見付かっちゃうるさいや。」ファゼーロはふりかえって、そんなことを云いながら走りつづけました。
けれどもさっき見た二本の樺の木まではなかなかすぐではありませんでした。
ファゼーロはよく走りました。
わたくしもずいぶん本気に走りました。
やっとそこに着いてファゼーロが立ちどまったときは、あたりはもうすっかり夜になっていて、樺の木もまっ黒にそらにすかし出されていました。
つめくさの花はちょ
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