え。」
「この赤と白の斑《ぶち》は私はいつでも昔《むかし》の海賊《かいぞく》のチョッキのような気がするんですよ。ね。
 それからこれはまっ赤《か》な羽二重《はぶたえ》のコップでしょう。この花びらは半ぶんすきとおっているので大へん有名《ゆうめい》です。ですからこいつの球《きゅう》はずいぶんみんなで欲《ほ》しがります。」
「ええ、全《まった》く立派《りっぱ》です。赤い花は風で動《うご》いている時よりもじっとしている時のほうがいいようですね。」
「そうです。そうです。そして一寸《ちょっと》あいつをごらんなさい。ね。そら、その黄いろの隣《とな》りのあいつです。」
「あの小さな白いのですか。」
「そうです、あれは此処《ここ》では一番大切なのです。まあしばらくじっと見詰《みつ》めてごらんなさい。どうです、形のいいことは一等《いっとう》でしょう。」
 洋傘《ようがさ》直しはしばらくその花に見入ります。そしてだまってしまいます。
「ずいぶん寂《しず》かな緑《みどり》の柄《え》でしょう。風にゆらいで微《かす》かに光っているようです。いかにもその柄が風に靱《しな》っているようです。けれども実《じつ》は少し
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