》ちなさい。主人《しゅじん》に聞いてあげましょう。」
「どうかお願《ねが》いいたします。」
 青い上着の園丁は独乙唐檜の茂みをくぐって消《き》えて行き、それからぽっと陽《ひ》も消えました。
 よっぽど西にその太陽《たいよう》が傾《かたむ》いて、いま入ったばかりの雲の間から沢山《たくさん》の白い光の棒《ぼう》を投《な》げそれは向《むこ》うの山脈《さんみゃく》のあちこちに落《お》ちてさびしい群青《ぐんじょう》の泣《な》き笑《わら》いをします。
 有平糖《あるへいとう》の洋傘もいまは普通《ふつう》の赤と白とのキャラコです。
 それから今度《こんど》は風が吹《ふ》きたちまち太陽は雲を外《はず》れチュウリップの畑《はたけ》にも不意《ふい》に明るく陽《ひ》が射《さ》しました。まっ赤《か》な花がぷらぷらゆれて光っています。
 園丁《えんてい》がいつか俄《にわ》かにやって来てガチャッと持《も》って来たものを置《お》きました。
「これだけお願《ねが》いするそうです。」
「へい。ええと。この剪定鋏《せんていばさみ》はひどく捩《ねじ》れておりますから鍛冶《かじ》に一ぺんおかけなさらないと直りません。こちらの
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