か。)
そしててくてくやって来ます。有平糖のその洋傘はいよいよひかり洋傘直しのその顔はいよいよ熱《ほて》って笑《わら》っています。
(洋傘直し、洋傘直し、なぜ農園の入口でおまえはきくっと曲《まが》るのか。農園の中などにおまえの仕事《しごと》はあるまいよ。)
洋傘《ようがさ》直しは農園《のうえん》の中へ入ります。しめった五月の黒つちにチュウリップは無雑作《むぞうさ》に並《なら》べて植《う》えられ、一めんに咲《さ》き、かすかにかすかにゆらいでいます。
(洋傘直し、洋傘直し。荷物をおろし、おまえは汗《あせ》を拭《ふ》いている。そこらに立ってしばらく花を見ようというのか。そうでないならそこらに立っていけないよ。)
園丁《えんてい》がこてをさげて青い上着《うわぎ》の袖《そで》で額《ひたい》の汗《あせ》を拭《ふ》きながら向《むこ》うの黒い独乙唐檜《ドイツとうひ》の茂《しげ》みの中から出て来ます。
「何のご用ですか。」
「私は洋傘直しですが何かご用はありませんか。若《も》しまた何か鋏《はさみ》でも研《と》ぐのがありましたらそちらのほうもいたします。」
「ああそうですか。一寸《ちょっと》お待《ま
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