くさん》沢山。けれどもいくらこぼれたところでそこら一面《いちめん》チュウリップ酒《しゅ》の波だもの。」
「一面どころじゃありません。そらのはずれから地面《じめん》の底《そこ》まですっかり光の領分《りょうぶん》です。たしかに今は光のお酒が地面の腹《はら》の底《そこ》までしみました。」
「ええ、ええ、そうです。おや、ごらんなさい、向《むこ》うの畑《はたけ》。ね。光の酒に漬《つか》っては花椰菜《はなやさい》でもアスパラガスでも実《じつ》に立派《りっぱ》なものではありませんか。」
「立派ですね。チュウリップ酒で漬《つ》けた瓶詰《びんづめ》です。しかし一体ひばりはどこまで逃《に》げたでしょう。どこまで逃げて行ったのかしら。自分で斯《こ》んな光の波《なみ》を起《おこ》しておいてあとはどこかへ逃げるとは気取《きど》ってやがる。あんまり気取ってやがる、畜生《ちくしょう》。」
「まったくそうです。こら、ひばりめ、降《お》りて来い。ははぁ、やつ、溶《と》けたな。こんなに雲もない空にかくれるなんてできないはずだ。溶けたのですよ。」
「いいえ、あいつの歌なら、あの甘《あま》ったるい歌なら、さっきから光の中に溶
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