》ちなさい。主人《しゅじん》に聞いてあげましょう。」
「どうかお願《ねが》いいたします。」
 青い上着の園丁は独乙唐檜の茂みをくぐって消《き》えて行き、それからぽっと陽《ひ》も消えました。
 よっぽど西にその太陽《たいよう》が傾《かたむ》いて、いま入ったばかりの雲の間から沢山《たくさん》の白い光の棒《ぼう》を投《な》げそれは向《むこ》うの山脈《さんみゃく》のあちこちに落《お》ちてさびしい群青《ぐんじょう》の泣《な》き笑《わら》いをします。
 有平糖《あるへいとう》の洋傘もいまは普通《ふつう》の赤と白とのキャラコです。
 それから今度《こんど》は風が吹《ふ》きたちまち太陽は雲を外《はず》れチュウリップの畑《はたけ》にも不意《ふい》に明るく陽《ひ》が射《さ》しました。まっ赤《か》な花がぷらぷらゆれて光っています。
 園丁《えんてい》がいつか俄《にわ》かにやって来てガチャッと持《も》って来たものを置《お》きました。
「これだけお願《ねが》いするそうです。」
「へい。ええと。この剪定鋏《せんていばさみ》はひどく捩《ねじ》れておりますから鍛冶《かじ》に一ぺんおかけなさらないと直りません。こちらのほうはみんな出来ます。はじめにお値段《ねだん》を決《き》めておいてよろしかったらお研《と》ぎいたしましょう。」
「そうですか。どれだけですか。」
「こちらが八|銭《せん》、こちらが十銭、こちらの鋏は二|丁《ちょう》で十五銭にいたしておきましょう。」
「ようござんす。じゃ願います。水がありますか。持って来てあげましょう。その芝《しば》の上がいいですか。どこでもあなたのすきな処《ところ》でおやりなさい。」
「ええ、水は私が持《も》って参《まい》ります。」
「そうですか。そこのかきねのこっち側《がわ》を少し右へついておいでなさい。井戸《いど》があります。」
「へい。それではお研ぎいたしましょう。」
「ええ。」
 園丁《えんてい》はまた唐檜《とうひ》の中にはいり洋傘《ようがさ》直しは荷物《にもつ》の底《そこ》の道具《どうぐ》のはいった引き出しをあけ缶《かん》を持って水を取《と》りに行きます。
 そのあとで陽《ひ》がまたふっと消《き》え、風が吹《ふ》き、キャラコの洋傘はさびしくゆれます。
 それから洋傘直しは缶の水をぱちゃぱちゃこぼしながら戻《もど》って来ます。
 鋼砥《かなど》の上で金鋼砂《こ
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