いざう》といふものがありました。この人はからだがまるで象のやうにふとって、それににせ金使ひでしたから、にせ金ととりかへたほんたうのお金も沢山持ってゐましたし、それに誰《たれ》もにせ金使ひだといふことを知りませんでしたから、自分だけではまあこれが人間のさいはひといふものでおれといふものもずゐぶんえらいもんだと思って居ました。ところがたゞ一つ、どうもちかごろ頭がぼんやりしていけない息がはあはあ云って困るといふのでした。お医者たちはこれは少し喰べすぎですよ、も少しごちそうを少くさへなされば頭のぼんやりしたのもからだのだるいのもみんな直りますとかう云ふのでしたが、大三はいつでも、いゝやこれは何かからだに不足なものがある為《ため》なんだ、それだから、見ろ、むかしは脚気《かくけ》などでも米の中に毒があるためだから米さへ食はなけぁなほるって云ったもんだが今はどうだ、それはビタミンといふものがたべものの中に足りない為だとかう云ふんだらう、お前たちは医者ならそんなこと位知ってさうなもんだといふやうな工合《ぐあひ》に却《かへ》って逆にお医者さんをいぢめたりするのでした。
 そしてしきりに、頭の工合のよくな
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