ピリッとしてからだがブルブルッとふるひ、何かきれいな流れが頭から手から足まで、すっかり洗ってしまったやう、何とも云へずすがすがしい気分になりました。空まではっきり青くなり、草の下の小さな苔《こけ》まではっきり見えるやうに思ひました。
 それに今まで聞えなかったかすかな音もみんなはっきりわかり、いろいろの木のいろいろな匂《にほひ》まで、実に一一手にとるやうです。おどろいて手にもったその一つぶのばらの実を見ましたら、それは雨の雫《しづく》のやうにきれいに光ってすきとほってゐるのでした。
 清夫は飛びあがってよろこんで早速それを持って風のやうにおうちへ帰りました。そしてお母さんに上げました。お母さんはこはごはそれを水に入れて飲みましたら今までの病気ももうどこへやら急にからだがピンとなってよろこんで起きあがりました。それからもうすっかりたっしゃになってしまひました。

         ※

 ところがその話はだんだんひろまりました。あっちでもこっちでも、その不思議なばらの実について評判してゐました。大かたそれは神様が清夫にお授けになったもんだらうといふのでした。
 ところが近くの町に大三《だ
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