りにはいっても、あるいはそのまま枯《か》れてしまってもいいのでした。
「虹《にじ》さん。どうか、ちょっとこっちを見てください」めくらぶどうは、ふだんの透《す》きとおる声もどこかへ行って、しわがれた声を風に半分《はんぶん》とられながら叫《さけ》びました。
やさしい虹《にじ》は、うっとり西の碧《あお》いそらをながめていた大きな碧《あお》い瞳《ひとみ》を、めくらぶどうに向《む》けました。
「何かご用でいらっしゃいますか。あなたはめくらぶどうさんでしょう」
めくらぶどうは、まるでぶなの木の葉《は》のようにプリプリふるえて輝《かがや》いて、いきがせわしくて思うように物《もの》が言《い》えませんでした。
「どうか私のうやまいを受《う》けとってください」
虹《にじ》は大きくといきをつきましたので、黄や菫《すみれ》は一つずつ声をあげるように輝《かがや》きました。そして言《い》いました。
「うやまいを受《う》けることは、あなたもおなじです。なぜそんなに陰気《いんき》な顔をなさるのですか」
「私はもう死《し》んでもいいのです」
「どうしてそんなことを、おっしゃるのです。あなたはまだお若《わか》いではありませんか。それに雪が降《ふ》るまでには、まだ二か月あるではありませんか」
「いいえ。私の命《いのち》なんか、なんでもないんです。あなたが、もし、もっと立派《りっぱ》におなりになるためなら、私なんか、百ぺんでも死《し》にます」
「あら、あなたこそそんなにお立派《りっぱ》ではありませんか。あなたは、たとえば、消《き》えることのない虹《にじ》です。変《か》わらない私です。私などはそれはまことにたよりないのです。ほんの十分か十五分のいのちです。ただ三|秒《びょう》のときさえあります。ところがあなたにかがやく七色はいつまでも変《か》わりません」
「いいえ、変《か》わります。変《か》わります。私の実《み》の光なんか、もうすぐ風に持《も》って行かれます。雪《ゆき》にうずまって白くなってしまいます。枯《か》れ草《くさ》の中で腐《くさ》ってしまいます」
虹《にじ》は思わず微笑《わら》いました。
「ええ、そうです。本とうはどんなものでも変《か》わらないものはないのです。ごらんなさい。向《む》こうのそらはまっさおでしょう。まるでいい孔雀石《くじゃくせき》のようです。けれどもまもなく
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