キッコを見てわらいました。「今日学校で泣《な》いたな。目のまわりが狸《たぬき》のようになっているぞ。」すると頭の上で鳥がピーとなきました。キッコは顔を赤くして立ちどまりました。
「何を泣いたんだ。正直に話してごらん。聞いてあげるから。」
鳥がまた頭の上でピーとなきました。するとおじいさんは顔をしかめて上を向《む》いて「おまえじゃないよ、やかましい、だまっておいで」とどなりました。
すると鳥はにわかにしいんとなってそれから飛《と》んで行ったらしくぼろんという羽の音も聞え樺《かば》の木からは雫《しずく》がきらきら光って降《ふ》りました。「いってごらん。なぜ泣いたの。」
おじいさんはやさしく云《い》いました。「木ペン失《な》ぐした。」キッコは両手《りょうて》を目にあててまたしくしく泣きました。「木ペン、なくした。そうか。そいつはかあいそうだ。まあ泣くな、見ろ手がまっ赤《か》じゃないか。」
おじいさんはごそごその着物《きもの》のたもとを裏返《うらがえ》しにしてぼろぼろの手帳《てちょう》を出してそれにはさんだみじかい鉛筆《えんぴつ》を出してキッコの手に持《も》たせました。キッコはまだ涙《なみだ》
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