て習字《しゅうじ》手本や読方の本と一緒に買って来た鉛筆でした。いくらみじかくなったってまだまだ使《つか》えたのです。使えないからってそれでも面白《おもしろ》いいい鉛筆なのです。
キッコは樺《かば》の林の間を行きました。樺はみな小さな青い葉《は》を出しすきとおった雨の雫《しずく》が垂《た》れいい匂《におい》がそこらいっぱいでした。おひさまがその葉をすかして古めかしい金いろにしたのです。
それを見ているうちに、
(木ペン樺《かば》の木に沢山《うんと》あるじゃ)キッコはふっとこう思いました。けれども樺の木の小さな枝《えだ》には鉛筆ぐらいの太さのはいくらでもありますけれども決《けっ》して黒い心がはいってはいないのです。キッコはまた泣《な》きたくなりました。
そのときキッコは向《むこ》うから灰《はい》いろのひだのたくさんあるぼろぼろの着物《きもの》を着た一人のおじいさんが大へん考え込《こ》んでこっちへ来るのを見ました。(あのおじいさんはきっと鼠捕《ねずみと》りだな。)キッコは考えました。おじいさんは変《へん》な黒《くろ》い沓《くつ》をはいていました。そしてキッコと行きちがうときいきなり顔をあげて
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