さけ》びました。「知らなぃじゃ、うなの机さ投《な》げてたじゃ。」慶助は云いました。キッコはかがんで机のまわりをさがしましたがありませんでした。そのうちに先生が入って来ました。
「三郎《さぶろう》、この時間うな木ペン使《つか》ってがら、おれさ貸《か》せな。」キッコがとなりの三郎に云いました。
「うん、」三郎が机の蓋《ふた》をあけて本や練習帖《れんしゅうちょう》を出しながら上《うわ》のそらで答えました。

     二

課業《かぎょう》がすんでキッコがうちへ帰るときは雨はすっかり晴れていました。
あちこちの木がみなきれいに光り山は群青《ぐんじょう》でまぶしい泣《な》き笑《わら》いのように見えたのでした。けれどもキッコは大へんに心もちがふさいでいました。慶助《けいすけ》はあんまりいばっているしひどい。それに鉛筆《えんぴつ》も授業《じゅぎょう》がすんでからいくらさがしてももう見えなかったのです。どの机《つくえ》の足もとにもあのみじかい鼠《ねずみ》いろのゴムのついた鉛筆はころがっていませんでした。新学期《しんがっき》からずうっと使《つか》っていた鉛筆です。おじいさんと一緒《いっしょ》に町へ行っ
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