いやつでそれに牛若丸《うしわかまる》のようにうしろの机の上にはねあがってしまいましたからキッコは手がとどきませんでした。「ほ、この木ペン、この木ペン。」慶助はいかにもおかしそうに顔をまっかにして笑って自分の眼《め》の前でうごかしていました。「よごせ慶助わあい。」キッコは一生けん命のびあがって慶助の手をおろそうとしましたが慶助はそれをはなして一つうしろの机《つくえ》ににげてしまいました。そして「いがキッコこの木ペン耳さ入るじゃぃ。」と云《い》いながらほんとうにキッコの鉛筆を耳に入れてしまったようでした。キッコは泣いて追《お》いかけましたけれども慶助はもうひらっと廊下《ろうか》へ出てそれからどこかへかくれてしまいました。キッコはすっかり気持《きもち》をわるくしてだまって窓《まど》へ行って顔を出して雨だれを見ていました。そのうち授業《じゅぎょう》のかねがなって慶助は教室に帰って来遠くからキッコをちらっとみましたが、またどこかであばれて来たとみえて鉛筆のことなどは忘《わす》れてしまったという風に顔をまっかにしてふうふう息《いき》をついていました。
「わあい、慶助、木ペン返せじゃ。」キッコは叫《
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