》ってしまうと困《こま》るなあ、こう考えたときでした鉛筆が俄《にわ》かに倍《ばい》ばかりの長さに延《の》びてしまいました。キッコはまるで有頂天《うちょうてん》になって誰《だれ》がどこで何をしているか先生がいま何を云《い》っているかもまるっきりわからないという風でした。
その日キッコが学校から帰ってからのはしゃぎようと云ったら第一《だいいち》におっかさんの前で十けたばかりの掛算《かけざん》と割算《わりざん》をすらすらやって見せてよろこばせそれから弟をひっぱり出して猫《ねこ》の顔を写生《しゃせい》したり|荒木又右エ門《あらきまたえもん》の仇討《あだうち》のとこを描《か》いて見せたりそしておしまいもうお話を自分でどんどんこさえながらずんずんそれを絵にして書いていきました。その絵がまるでほんもののようでしたからキッコの弟のよろこびようと云ったらありませんでした。
「さあいいが、その山猫《やまねこ》はこの栗《くり》の木がらひらっとこっちさ遁《に》げだ。鉄砲打《てっぽうう》ぢはこうぼかげだ。山猫はとうとうつかまって退治《たいじ》された。耳の中にこう云う玉入っていた。」なんてやっていました。
そのう
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