なづるがあわたゞしく飛んで過ぎました。
「まなづるさん。あたしかなり光ってゐない?」
「ずゐぶん光ってゐますね。」
まなづるは、向ふのほのじろい霧の中に落ちて行きながらまた声ひくく白いダァリヤへ声をかけて行きました。
「今晩は。ご機嫌《きげん》はいかゞですか。」
※
星はめぐり、金星の終りの歌で、そらはすっかり銀色になり、夜があけました。日光は今朝はかゞやく琥珀《こはく》の波です。
「まあ、あなたの美しいこと。後光は昨日の五倍も大きくなってるわ。」
「ほんたうに眼もさめるやうなのよ。あの梨《なし》の木まであなたの光が行ってますわ。」
「えゝ、それはさうよ。だってつまらないわ。誰《たれ》もまだあたしを女王さまだとは云はないんだから。」
そこで黄色なダァリヤは、さびしく顔を見合せて、それから西の群青《ぐんじゃう》の山脈にその大きな瞳《ひとみ》を投げました。
かんばしくきらびやかな、秋の一日は暮れ、露は落ち星はめぐり、そしてあのまなづるが、三つの花の上の空をだまって飛んで過ぎました。
「まなづるさん。あたし今夜どう見えて?」
「さあ、大したもんですね。けれども
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング