かりの下を、まなづるの黒い影がかけて行きました。
「まなづるさん。あたしずゐぶんきれいでせう。」赤いダァリヤが云ひました。
「あゝきれいだよ。赤くってねえ。」
鳥は向ふの沼の方のくらやみに消えながらそこにつゝましく白く咲いてゐた一本の白いダァリヤに声ひくく叫びました。
「今ばんは。」
白いダァリヤはつゝましくわらってゐました。
※
山山にパラフ※[#小書き片仮名ヰ、243−15]ンの雲が白く澱《よど》み、夜が明けました。黄色なダァリヤはびっくりして、叫びました。
「まあ、あなたの美しくなったこと。あなたのまはりは桃色の後光よ。」
「ほんたうよ。あなたのまはりは虹《にじ》から赤い光だけ集めて来たやうよ。」
「あら、さう。だってやっぱりつまらないわ。あたしあたしの光でそらを赤くしようと思ってゐるのよ。お日さまが、いつもより金粉をいくらかよけいに撒《ま》いていらっしゃるのよ。」
黄色な花は、どちらもだまって口をつぐみました。
その黄金《きん》いろのまひるについで、藍晶石《らんしゃうせき》のさはやかな夜が参りました。
いちめんのきら星の下を、もじゃもじゃのま
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