もう大分くらいからな。」
まなづるはそして向ふの沼の岸を通ってあの白いダァリヤに云ひました。
「今晩は、いゝお晩ですね。」
※
夜があけかゝり、その桔梗《ききゃう》色の薄明の中で、黄色なダァリヤは、赤い花を一寸《ちょっと》見ましたが、急に何か恐《こは》さうに顔を見合せてしまって、一ことも物を云ひませんでした。赤いダァリヤが叫びました。
「ほんたうにいらいらするってないわ。今朝はあたしはどんなに見えてゐるの。」
一つの黄色のダァリヤが、おづおづしながら云ひました。
「きっとまっ赤なんでせうね。だけどあたしらには前のやうに赤く見えないわ。」
「どう見えるの。云って下さい。どう見えるの。」
も一つの黄色なダァリヤが、もぢもぢしながら云ひました。
「あたしたちにだけさう見えるのよ。ね。気にかけないで下さいね。あたしたちには何だかあなたに黒いぶちぶちができたやうに見えますわ。」
「あらっ。よして下さいよ。縁起でもないわ。」
太陽は一日かゞやきましたので、丘の苹果《りんご》の半分はつやつや赤くなりました。
そして薄明が降り、黄昏《くわうこん》がこめ、それから夜が
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