からだを夢のやうに横の方に見たのです。にはかにあたりがぼんやりくらくなりました。それから黒くなりました。追はれて行く子供らの青じろい列ばかりその中に浮いて見えました。
 だんだん眼が闇《やみ》になれて来た時一郎はその中のひろい野原にたくさんの黒いものがじっと座ってゐるのを見ました。微《かす》かな青びかりもありました。それらはみなからだ中黒い長い髪の毛で一杯に覆はれてまっ白な手足が少し見えるばかりでした。その中の一つがどういふわけか一寸《ちょっと》動いたと思ひますと俄《には》かにからだもちぎれるやうな叫び声をあげてもだえまはりました。そしてまもなくその声もなくなって一かけの泥のかたまりのやうになってころがるのを見ました。そしてだんだん眼がなれて来たときその闇の中のいきものは刀の刃のやうに鋭い髪の毛でからだを覆はれてゐること一寸でも動けばすぐからだを切ることがわかりました。
 その中をしばらくしばらく行ってからまたあたりが少し明るくなりました。そして地面はまっ赤でした。前の方の子供らが突然|烈《はげ》しく泣いて叫びました。列もとまりました。鞭《むち》の音や鬼の怒り声が雹《ひょう》や雷のやう
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