り見えてゐましたので一郎はいきなり指でカチンとその歯をはじきました。
楢夫は目をつぶったまゝ一寸《ちょっと》顔をしかめましたがまたすうすう息をしてねむりました。
「起ぎろ、楢夫、夜ぁ明げだ、起ぎろ。」一郎は云ひながら楢夫の頭をぐらぐらゆすぶりました。
楢夫はいやさうに顔をしかめて何かぶつぶつ云ってゐましたがたうとううすく眼を開きました。そしていかにもびっくりしたらしく
「ほ、山さ来てらたもな。」とつぶやきました。
「昨夜《ゆべな》、今朝方《けさかだ》だ※[#小書き平仮名た、240−7]がな、火ぁ消《け》でらたな、覚《おべ》だが。」
一郎が云ひました。
「知らなぃ。」
「寒くてさ。お父さん起ぎて又燃やしたやうだっけぁ。」
楢夫は返事しないで何かぼんやりほかのことを考えてゐるやうでした。
「お父さん外《そど》で稼《かせ》ぃでら。さ、起ぎべ。」
「うん。」
そこで二人は一所《いっしょ》にくるまって寝た小さな一枚の布団から起き出しました。そして火のそばに行きました。楢夫はけむさうにめをこすり一郎はじっと火を見てゐたのです。
外では谷川がごうごうと流れ鳥がツンツン鳴きました。
その
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