んなたつたいまできたばかりのやうにうるうるもりあがつて、まつ青なそらのしたにならんでゐました。一郎はいそいでごはんをたべて、ひとり谷川に沿つたこみちを、かみの方へのぼつて行きました。
 すきとほつた風がざあつと吹くと、栗《くり》の木はばらばらと実をおとしました。一郎は栗の木をみあげて、
「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかつたかい。」とききました。栗の木はちよつとしづかになつて、
「やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ。」と答へました。
「東ならぼくのいく方だねえ、をかしいな、とにかくもつといつてみよう。栗の木ありがたう。」
 栗の木はだまつてまた実をばらばらとおとしました。
 一郎がすこし行きますと、そこはもう笛ふきの滝でした。笛ふきの滝といふのは、まつ白な岩の崖《がけ》のなかほどに、小さな穴があいてゐて、そこから水が笛のやうに鳴つて飛び出し、すぐ滝になつて、ごうごう谷におちてゐるのをいふのでした。
 一郎は滝に向いて叫びました。
「おいおい、笛ふき、やまねこがここを通らなかつたかい。」
 滝がぴーぴー答へました。
「やまねこは、さつき、馬車で西の方へ
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