ゃ、そちは左程《さほど》になけれども、そちの身に添う慾心が実《げ》に大力じゃ。大力じゃのう。ほめ遣わす。ほめ遣わす。さらばしかと預けたぞよ」
 さむらいは銀扇をパッと開いて感服しましたが、六平は余りの重さに返事も何も出来ませんでした。
 さむらいは扇をかざして月に向って、
「それ一芸あるものはすがたみにくし」と何だか謡曲のような変なものを低くうなりながら向うへ歩いて行きました。
 六平は十の千両ばこをよろよろしょって、もうお月さまが照ってるやら、路《みち》がどう曲ってどう上ってるやら、まるで夢中で自分の家までやってまいりました。そして荷物をどっかり庭におろして、おかしな声で外から怒鳴りました。
「開けろ開けろ。お帰りだ。大尽さまのお帰りだ」
 六平の娘が戸をガタッと開けて、
「あれまあ、父さん。そったに砂利しょて何しただす」と叫びました。
 六平もおどろいておろしたばかりの荷物を見ましたら、おやおや、それはどての普請の十の砂利俵でした。
 六平はクウ、クウ、クウと鳴って、白い泡《あわ》をはいて気絶しました。それからもうひどい熱病になって、二か月の間というもの、
「とっこべとら子に、だま
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