なは口々に言いました。
「やっぱり古い狐だな。まるで眼玉は火のようだったぞ」
「おまけに毛といったら銀の針だ」
「全く争われないもんだ。口が耳まで裂けていたからな。崇《たた》られまぃが」
「心配するな。あしたはみんなで川岸に油揚を持って行って置いて来るとしよう」
 みんなは帰る元気もなくなって、平右衛門の所に泊りました。
「源の大将」はお顔を半分切られて月光にキリキリ歯を喰いしばっているように見えました。
 夜中になってから「とっこべ、とら子」とその沢山の可愛らしい部下とが又出て来て、庭に抛《ほう》り出されたあのおみやげの藁《わら》の苞《つと》を、かさかさ引いた、たしかにその音がしたとみんながさっきも話していました。



底本:「風の又三郎」角川文庫、角川書店
   1988(昭和63)年12月10日初版発行
   1990(平成2)年10月20日8版発行
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年6月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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