さいので、肩章《けんしょう》がよくわかりませんでした。
 小猿の大将は、手帳のようなものを出して、足を重ねてぶらぶらさせながら、楢夫に云《い》いました。
「おまえが楢夫か。ふん。何|歳《さい》になる。」
 楢夫はばかばかしくなってしまいました。小さな小さな猿の癖《くせ》に、軍服などを着て、手帳まで出して、人間をさも捕虜《ほりょ》か何かのように扱《あつか》うのです。楢夫が申しました。
「何だい。小猿。もっと語《ことば》を丁寧《ていねい》にしないと僕《ぼく》は返事なんかしないぞ。」
 小猿が顔をしかめて、どうも笑ったらしいのです。もう夕方になって、そんな小さな顔はよくわかりませんでした。
 けれども小猿は、急いで手帳をしまって、今度は手を膝《ひざ》の上で組み合せながら云いました。
「仲々|強情《ごうじょう》な子供だ。俺《おれ》はもう六十になるんだぞ。そして陸軍大将だぞ。」
 楢夫は怒《おこ》ってしまいました。
「何だい。六十になっても、そんなにちいさいなら、もうさきの見込《みこみ》が無いやい。腰掛けのまま下へ落すぞ。」
 小猿が又《また》笑ったようでした。どうも、大変、これが気にかかりまし
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