あるんだ。」
「そんならおれにはなぜ酒を買わんか。」
「買ういわれがない」
「いや、ある、沢山《たくさん》ある。買え」
「買ういわれがない」
画かきは顔をしかめて、しょんぼり立ってこの喧嘩《けんか》をきいていましたがこのとき、俄《にわ》かに林の木の間から、東の方を指さして叫《さけ》びました。
「おいおい、喧嘩はよせ。まん円い大将に笑われるぞ。」
見ると東のとっぷりとした青い山脈の上に、大きなやさしい桃《もも》いろの月がのぼったのでした。お月さまのちかくはうすい緑いろになって、柏《かしわ》の若い木はみな、まるで飛びあがるように両手をそっちへ出して叫びました。
「おつきさん、おつきさん、おっつきさん、
ついお見外《みそ》れして すみません
あんまりおなりが ちがうので
ついお見外れして すみません。」
柏の木大王も白いひげをひねって、しばらくうむうむと云いながら、じっとお月さまを眺《なが》めてから、しずかに歌いだしました。
「こよいあなたは ときいろの
むかしのきもの つけなさる
かしわばやしの このよいは
なつのおどりの だいさんや
やがてあなたは みずいろの
き
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