どの風が僕《ぼく》たちを連《つ》れて行くかさっきから見ているんです」
「どうです。飛《と》んで行くのはいやですか」
「なんともありません。僕《ぼく》たちの仕事《しごと》はもう済《す》んだんです」
「こわかありませんか」
「いいえ、飛《と》んだってどこへ行ったって野はらはお日さんのひかりでいっぱいですよ。僕《ぼく》たちばらばらになろうたって、どこかのたまり水の上に落《お》ちようたって、お日さんちゃんと見ていらっしゃるんですよ」
「そうです、そうです。なんにもこわいことはありません。僕《ぼく》だってもういつまでこの野原にいるかわかりません。もし来年もいるようだったら来年は僕《ぼく》はここへ巣《す》をつくりますよ」
「ええ、ありがとう。ああ、僕《ぼく》まるで息《いき》がせいせいする。きっと今度《こんど》の風だ。ひばりさん、さよなら」
「僕《ぼく》も、ひばりさん、さよなら」
「じゃ、さよなら、お大事《だいじ》においでなさい」
奇麗《きれい》なすきとおった風がやって参《まい》りました。まず向《む》こうのポプラをひるがえし、青の燕麦《オート》に波《なみ》をたてそれから丘《おか》に
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