つまでたっても雲がなくならないじゃないか」
 「いいや、あすこから雲が湧《わ》いて来るんだよ。そら、あすこに小さな小さな雲きれが出たろう。きっと大きくなるよ」
 「ああ、ほんとうにそうだね、大きくなったねえ。もう兎《うさぎ》ぐらいある」
 「どんどんかけて来る。早い早い、大きくなった、白熊《しろくま》のようだ」
 「またお日さんへかかる。暗《くら》くなるぜ、奇麗《きれい》だねえ。ああ奇麗《きれい》。雲のへりがまるで虹《にじ》で飾《かざ》ったようだ」
 西の方の遠くの空でさっきまで一生けん命《めい》啼《な》いていたひばりがこの時風に流《なが》されて羽《はね》を変《へん》にかしげながら二人のそばに降《お》りて来たのでした。
 「今日は、風があっていけませんね」
 「おや、ひばりさん、いらっしゃい。今日なんか高いとこは風が強いでしょうね」
 「ええ、ひどい風ですよ。大きく口をあくと風が僕《ぼく》のからだをまるで麦酒瓶《ビールびん》のようにボウと鳴らして行くくらいですからね。わめくも歌うも容易《ようい》のこっちゃありませんよ」
 「そうでしょうね。だけどここから見ているとほんとうに風はおもしろ
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