のでしょう。鳥をたべることさえ忘《わす》れたようです。
 あれは空地《あきち》のかれ草の中に一本のうずのしゅげが花をつけ風にかすかにゆれているのを見ているからです。
 私は去年《きょねん》のちょうど今ごろの風のすきとおったある日のひるまを思い出します。
 それは小岩井農場《こいわいのうじょう》の南、あのゆるやかな七つ森のいちばん西のはずれの西がわでした。かれ草の中に二本のうずのしゅげが、もうその黒いやわらかな花をつけていました。
 まばゆい白い雲が小さな小さなきれになって砕《くだ》けてみだれて、空をいっぱい東の方へどんどんどんどん飛《と》びました。
 お日さまは何べんも雲にかくされて銀《ぎん》の鏡《かがみ》のように白く光ったり、またかがやいて大きな宝石《ほうせき》のように蒼《あお》ぞらの淵《ふち》にかかったりしました。
 山脈《さんみゃく》の雪はまっ白に燃《も》え、眼《め》の前の野原は黄《き》いろや茶の縞《しま》になってあちこち掘《ほ》り起《お》こされた畑《はたけ》は鳶《とび》いろの四角《しかく》なきれをあてたように見えたりしました。
 おきなぐさはその変幻《へんげん》の光の奇術《トリ
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