、なめらかな春のはじめの光のぐあいが実《じつ》にはっきり出ているように、うずのしゅげというときは、あの毛※[#「※」は「草かんむり」+「艮」、第4水準2−86−12、5−14]科《もうこんか》のおきなぐさの黒朱子《くろじゅす》の花びら、青じろいやはり銀《ぎん》びろうどの刻《きざ》みのある葉《は》、それから六月のつやつや光る冠毛《かんもう》がみなはっきりと眼《め》にうかびます。
まっ赤なアネモネの花の従兄《いとこ》、きみかげそうやかたくりの花のともだち、このうずのしゅげの花をきらいなものはありません。
ごらんなさい。この花は黒朱子《くろじゅす》ででもこしらえた変《か》わり型《がた》のコップのように見えますが、その黒いのは、たとえば葡萄酒《ぶどうしゅ》が黒く見えると同じです。この花の下を始終《しじゅう》往《い》ったり来たりする蟻《あり》に私はたずねます。
「おまえはうずのしゅげはすきかい、きらいかい」
蟻《あり》は活発《かっぱつ》に答えます。
「大すきです。誰《だれ》だってあの人をきらいなものはありません」
「けれどもあの花はまっ黒だよ」
「いいえ、黒く見えるときもそれはあり
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