てまた見ますと、あのまっ白な建物《たてもの》は、柱が折《お》れてすっかり引っくり返《かえ》っています。
蟻の子供らが両方《りょうほう》から帰ってきました。
「兵隊《へいたい》さん。かまわないそうだよ。あれはきのこというものだって。なんでもないって。アルキル中佐《ちゅうさ》はうんと笑《わら》ったよ。それからぼくをほめたよ」
「あのね、すぐなくなるって。地図に入れなくてもいいって。あんなもの地図に入れたり消《け》したりしていたら、陸地測量部《りくちそくりょうぶ》など百あっても足りないって。おや! 引っくりかえってらあ」
「たったいま倒《たお》れたんだ」歩哨は少しきまり悪《わる》そうに言《い》いました。
「なあんだ。あっ。あんなやつも出て来たぞ」
向《む》こうに魚の骨《ほね》の形をした灰《はい》いろのおかしなきのこが、とぼけたように光りながら、枝《えだ》がついたり手が出たりだんだん地面《じめん》からのびあがってきます。二|疋《ひき》の蟻《あり》の子供らは、それを指《ゆび》さして、笑《わら》って笑って笑います。
そのとき霧《きり》の向《む》こうから、大きな赤い日がのぼり、羊歯《しだ》もす
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