いって行きました。
 霧《きり》の粒《つぶ》はだんだん小さく小さくなって、いまはもう、うすい乳《ちち》いろのけむりに変《か》わり、草や木の水を吸《す》いあげる音は、あっちにもこっちにも忙《いそが》しく聞こえだしました。さすがの歩哨もとうとうねむさにふらっとします。
 二|疋《ひき》の蟻《あり》の子供《こども》らが、手をひいて、何かひどく笑《わら》いながらやって来ました。そしてにわかに向《む》こうの楢《なら》の木の下を見てびっくりして立ちどまります。
「あっ、あれなんだろう。あんなところにまっ白な家ができた」
「家じゃない山だ」
「昨日はなかったぞ」
「兵隊《へいたい》さんにきいてみよう」
「よし」
 二疋の蟻は走ります。
「兵隊さん、あすこにあるのなに?」
「なんだうるさい、帰れ」
「兵隊さん、いねむりしてんだい。あすこにあるのなに?」
「うるさいなあ、どれだい、おや!」
「昨日はあんなものなかったよ」
「おい、大変《たいへん》だ。おい。おまえたちはこどもだけれども、こういうときには立派《りっぱ》にみんなのお役《やく》にたつだろうなあ。いいか。おまえはね、この森をはいって行ってアルキル
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