あけがた
宮沢賢治

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 おれはその時その青黒く淀んだ室の中の堅い灰色の自分の席にそわそわ立ったり座ったりしてゐた。
 二人の男がその室の中に居た。一人はたしかに獣医の有本でも一人はさまざまのやつらのもやもやした区分キメラであった。
 おれはどこかへ出て行かうと考へてゐるらしかった。飛ぶんだぞ霧の中をきいっとふっとんでやるんだなどと頭の奥で叫んでゐた。ところがその二人がしきりに着物のはなしをした。
 おれはひどくむしゃくしゃした。そして卓をガタガタゆすってゐた。
 いきなり霧積が入って来た。霧積は変に白くぴかぴかする金襴の羽織を着てゐた。そしてひどく嬉しさうに見えた。今朝は支那版画展覧会があって自分はその幹事になってゐるからそっちへ行くんだと云ってかなり大声で笑った。おれはそれがしゃくにさわった。第一霧積は今日はおれと北の方の野原へ出かける約束だったのだ、そ
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