れを白っぽい金襴の羽織などを着込んでわけもわからない処へ行ってけらけら笑ったりしやうといふのはあんまり失敬だと おれは考へた。
ところが霧積はどう云ふわけか急におれの着物を笑ひ出した。有本も笑った。区分キメラもつめたくあざ笑った。なんだ着物のことなどか きさまらは男だらう それに本気で着もののことを云ふのか、などとおれはそっと考へて見たがどうも気持が悪かった。それから今度は有本が何かもにやもにや云っておれを慰めるやうにした。
おれにはどういふわけで自分に着物が斯う足りないのかどう考へても判らなくてひどく悲しかった。そこでおれは立ちあがって云〔っ〕た。
「あたりまへさ。おれなんぞまだ着物など三つも四つもためられる訳はないんだ。おれはこれで沢山だ。」有本や霧積は何か眩しく光る絵巻か角帯らしいものをひろげて引っぱってしゃべってゐた。おれはぷいと外へ出た。そしていきなり川ばたの白い四角な家に入った。知らない赤い女が髪もよく削らずに立ってゐた。そしていきなり
「お履物はこちらへまはしましたから。」と云っておれの革スリッパを変な裏口のやうな土間に投げ出した。おれは「ふん」と云ひながらそっちへ行った
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