(ありがたう
  いま途中で行き倒《だふ》れがありましてな)
 (どんなひとですか)
 (りつぱな紳士です)
 (はなのあかいひとでせう)
 (さうです)
 (犬はつかまつてゐましたか)
 (臨終《りんじゆう》にさういつてゐましたがね
  犬はもう十五哩もむかふでせう
  じつにいゝ犬でした)
 (ではあのひとはもう死にましたか)
 (いゝえ露がおりればなほります
  まあちよつと黄いろな時間だけの仮死《かし》ですな
  ううひどい風だ まゐつちまふ)
まつたくひどいかぜだ
たふれてしまひさうだ
沙漠でくされた駝鳥《だてう》の卵
たしかに硫化水素ははひつてゐるし
ほかに無水亜硫酸
つまりこれはそらからの瓦斯の気流に二つある
しようとつして渦になつて硫黄|華《くわ》ができる
    気流に二つあつて硫黄華ができる
        気流に二つあつて硫黄華ができる
 (しつかりなさい しつかり
  もしもし しつかりなさい
  たうとう参つてしまつたな
  たしかにまゐつた
  そんならひとつお時計をちやうだいしますかな)
おれのかくしに手を入れるのは
なにがいつたい保安掛りだ
必要が
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