ない どなつてやらうか
         どなつてやらうか
            どなつてやらうか
               どなつ……
水が落ちてゐる
ありがたい有難い神はほめられよ 雨だ
悪い瓦斯はみんな溶けろ
 (しつかりなさい しつかり
  もう大丈夫です)
何が大丈夫だ おれははね起きる
 (だまれ きさま
  黄いろな時間の追剥め
  飄然たるテナルデイ軍曹だ
  きさま
  あんまりひとをばかにするな
  保安掛りとはなんだ きさま)
いゝ気味だ ひどくしよげてしまつた
ちゞまつてしまつたちひさくなつてしまつた
ひからびてしまつた
四角な背嚢ばかりのこり
たゞ一かけの泥炭《でいたん》になつた
ざまを見ろじつに醜《みにく》い泥炭なのだぞ
背嚢なんかなにを入れてあるのだ
保安掛り じつにかあいさうです
カムチヤツカの蟹の缶詰と
陸稲《をかぼ》の種子がひとふくろ
ぬれた大きな靴が片つ方
それと赤鼻紳士の金鎖
どうでもいゝ 実にいゝ空気だ
ほんたうに液体のやうな空気だ
 (ウーイ 神はほめられよ
  みちからのたたふべきかな
  ウーイ いゝ空気だ)
そらの澄《ちよう》明 
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