が言つた
※[#始め二重パーレン、1−2−54]おらあど死んでもいゝはんて
あの林の中さ行ぐだい
うごいで熱は高ぐなつても
あの林の中でだらほんとに死んでもいいはんて※[#終わり二重パーレン、1−2−55]
鳥のやうに栗鼠のやうに
そんなにさはやかな林を恋ひ
(栗鼠の軋りは水車の夜明け
大きなくるみの木のしただ)
一千九百二十三年の
とし子はやさしく眼をみひらいて
透明薔薇の身熱から
青い林をかんがへてゐる
フアゴツトの声が前方にし
Funeral march があやしくいままたはじまり出す
(車室の軋りはかなしみの二疋の栗鼠)
※[#始め二重パーレン、1−2−54]栗鼠お魚たべあんすのすか※[#終わり二重パーレン、1−2−55]
(二等室のガラスは霜のもやう)
もう明けがたに遠くない
崖の木や草も明らかに見え
車室の軋りもいつかかすれ
一ぴきのちひさなちひさな白い蛾が
天井のあかしのあたりを這つてゐる
(車室の軋りは天の楽音)
噴火湾のこの黎明の水明り
室蘭通ひの汽船には
二つの赤い灯がともり
東の天末は濁つた孔雀石の縞
黒く立つものは樺の木と楊の木
駒ヶ岳駒ヶ岳
暗い金属の雲をかぶつて立つてゐる
そのまつくらな雲のなかに
とし子がかくされてゐるかもしれない
ああ何べん理智が教へても
私のさびしさはなほらない
わたくしの感じないちがつた空間に
いままでここにあつた現象がうつる
それはあんまりさびしいことだ
(そのさびしいものを死といふのだ)
たとへそのちがつたきらびやかな空間で
とし子がしづかにわらはうと
わたくしのかなしみにいぢけた感情は
どうしてもどこかにかくされたとし子をおもふ
[#地付き](一九二三、八、一一)
[#改丁、ページの左右中央に]
風景とオルゴール
[#改ページ]
不貪慾戒
油紙を着てぬれた馬に乗り
つめたい風景のなか 暗い森のかげや
ゆるやかな環状削剥《くわんじやうせうはく》の丘 赤い萱の穂のあひだを
ゆつくりあるくといふこともいゝし
黒い多面角の洋傘《かうもりがさ》をひろげ
砂砂《すなさ》糖を買ひに町へ出ることも
ごく新鮮な企画である
(ちらけろちらけろ 四十雀)
粗剛なオリザサチバといふ植物の人工群落が
タアナアさへもほしがりさうな
上等のさらどの色になつてゐ
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