射をわたり
店さきにひとつ置かれた
提婆のかめをぬすんだもの
にはかにもその長く黒い脚をやめ
二つの耳に二つの手をあて
電線のオルゴールを聴く
[#地付き](一九二二、三、二)
[#改ページ]
恋と病熱
けふはぼくのたましひは疾み
烏《からす》さへ正視ができない
あいつはちやうどいまごろから
つめたい青銅《ブロンヅ》の病室で
透明|薔薇《ばら》の火に燃される
ほんたうに けれども妹よ
けふはぼくもあんまりひどいから
やなぎの花もとらない
[#地付き](一九二二、三、二〇)
[#改ページ]
春と修羅
(mental sketch modified)
心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲《てんごく》模様
(正午の管楽《くわんがく》よりもしげく
琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾《つばき》し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)
砕ける雲の眼路《めぢ》をかぎり
れいろうの天の海には
聖玻璃《せいはり》の風が行き交ひ
ZYPRESSEN 春のいちれつ
くろぐろと光素《エーテル》を吸ひ
その暗い脚並からは
天山の雪の稜さへひかるのに
(かげろふの波と白い偏光)
まことのことばはうしなはれ
雲はちぎれてそらをとぶ
ああかがやきの四月の底を
はぎしり燃えてゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(玉髄の雲がながれて
どこで啼くその春の鳥)
日輪青くかげろへば
修羅は樹林に交響し
陥りくらむ天の椀から
黒い木の群落が延び
その枝はかなしくしげり
すべて二重の風景を
喪神の森の梢から
ひらめいてとびたつからす
(気層いよいよすみわたり
ひのきもしんと天に立つころ)
草地の黄金をすぎてくるもの
ことなくひとのかたちのもの
けらをまとひおれを見るその農夫
ほんたうにおれが見えるのか
まばゆい気圏の海のそこに
(かなしみは青々ふかく)
ZYPRESSEN しづかにゆすれ
鳥はまた青ぞらを截る
(まことのことばはこ
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