れが羊羹《やうかん》いろでぼろぼろで
あるいはすこし暑くもあらうが
あんなまじめな直立や
風景のなかの敬虔な人間を
わたくしはいままで見たことがない
[#地付き](一九二二、六、二五)
[#改ページ]
岩手山
そらの散乱反射《さんらんはんしや》のなかに
古ぼけて黒くゑぐるもの
ひかりの微塵系列《みぢんけいれつ》の底に
きたなくしろく澱《よど》むもの
[#地付き](一九二二、六、二七)
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高原
海だべがど おら おもたれば
やつぱり光る山だたぢやい
ホウ
髪毛《かみけ》 風吹けば
鹿《しし》踊りだぢやい
[#地付き](一九二二、六、二七)
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印象
ラリツクスの青いのは
木の新鮮と神経の性質と両方からくる
そのとき展望車の藍いろの紳士は
X型のかけがねのついた帯革をしめ
すきとほつてまつすぐにたち
病気のやうな顔をして
ひかりの山を見てゐたのだ
[#地付き](一九二二、六、二七)
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高級の霧
こいつはもう
あんまり明るい高級《ハイグレード》の霧です
白樺も芽をふき
からすむぎも
農舎の屋根も
馬もなにもかも
光りすぎてまぶしくて
(よくおわかりのことでせうが
日射《ひざ》しのなかの青と金
落葉松《ラリツクス》は
たしかとどまつに似て居ります)
まぶし過ぎて
空気さへすこし痛いくらゐです
[#地付き](一九二二、六、二七)
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電車
トンネルへはひるのでつけた電燈ぢやないのです
車掌がほんのおもしろまぎれにつけたのです
こんな豆ばたけの風のなかで
なあに 山火事でござんせう
なあに 山火事でござんせう
あんまり大きござんすから
はてな 向ふの光るあれは雲ですな
木きつてゐますな
いゝえ やつぱり山火事でござんせう
おい きさま
日本の萱の野原をゆくビクトルカランザの配下
帽子が風にとられるぞ
こんどは青い稗《ひえ》を行く貧弱カランザの末輩
きさまの馬はもう汗でぬれてゐる
[#地付き](一九二二、八、一七)
[#改ページ]
天然誘接
北斎《ほくさい》のはんのきの下で
黄の風車まはるまはる
いつぽんすぎは天然誘接《てんねんよびつぎ》ではありません
槻《つき》と杉とがいつしよに生えていつしよに育ち
たうとう幹がくつついて
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