それからさきがあんまり青黒くなつてきたら……
そんなさきまでかんがへないでいい
ちからいつぱい口笛を吹け
口笛をふけ 陽《ひ》の錯綜《さくそう》
たよりもない光波のふるひ
すきとほるものが一列わたくしのあとからくる
ひかり かすれ またうたふやうに小さな胸を張り
またほのぼのとかゞやいてわらふ
みんなすあしのこどもらだ
ちらちら瓔珞《やうらく》もゆれてゐるし
めいめい遠くのうたのひとくさりづつ
緑金寂静《ろくきんじやくじやう》のほのほをたもち
これらはあるいは天の鼓手《こしゆ》 緊那羅《きんなら》のこどもら
 (五本の透明なさくらの木は
  青々とかげろふをあげる)
わたくしは白い雑嚢をぶらぶらさげて
きままな林務官のやうに
五月のきんいろの外光のなかで
口笛をふき歩調をふんでわるいだらうか
たのしい太陽系の春だ
みんなはしつたりうたつたり
はねあがつたりするがいい
  (コロナは八十三万二百……)
あの四月の実習のはじめの日
液肥をはこぶいちにちいつぱい
光炎菩薩太陽マヂツクの歌が鳴つた
  (コロナは八十三万四百……)
ああ陽光のマヂツクよ
ひとつのせきをこえるとき
ひとりがかつぎ棒をわたせば
それは太陽のマヂツクにより
磁石のやうにもひとりの手に吸ひついた
  (コロナは七十七万五千……)
どのこどもかが笛を吹いてゐる
それはわたくしにきこえない
けれどもたしかにふいてゐる
  (ぜんたい笛といふものは
   きまぐれなひよろひよろの酋長だ)

みちがぐんぐんうしろから湧き
過ぎて来た方へたたんで行く
むら気な四本の桜も
記憶のやうにとほざかる
たのしい地球の気圏の春だ
みんなうたつたりはしつたり
はねあがつたりするがいい

   パート五[#ゴシック体]  パート六[#ゴシック体]

   パート七[#ゴシック体]

とびいろのはたけがゆるやかに傾斜して
すきとほる雨のつぶに洗はれてゐる
そのふもとに白い笠の農夫が立ち
つくづくとそらのくもを見あげ
こんどはゆつくりあるきだす
 (まるで行きつかれたたび人だ)
汽車の時間をたづねてみよう
こゝはぐちやぐちやした青い湿地で
もうせんごけも生えてゐる
 (そのうすあかい毛もちゞれてゐるし
  どこかのがまの生えた沼地を
  ネー将軍|麾《き》下の騎兵の馬が
  泥に一尺ぐらゐ踏みこんで
  すぱすぱ渉つて進軍
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