次の点からすぐわかる。
  第一自殺をするものが
  霧の降るのをいやがって
  青い巾などを被ってゐるか。
  第二に自殺をするものが
  二本も注意深く鉛筆を削り
  そんなあやしんで近寄るものを
  霧の中でしらしら笑ってゐるか。)
ホイッスラアの夜の空の中に
正しく張り渡されるこの麻の綱は
美しくもまた高尚です。
あちこち電燈はだんだん消され
船員たちはこゝろもちよく帰って来る。
稚内のまちの北のはづれ
私のまっ正面で海から一つの光が湧き
またすぐ消える、鳴れ汽笛鳴れ。
火はまた燃える。
「あすこに見えるのは燈台ですか。」
「さうですね。」
またさっきの男がやって来た。
私は却ってこの人に物を云って置いた方がいゝ。
「あすこに見えますのは燈台ですか。」
「いゝえ、あれは発火信号です。」
「さうですか。」
「うしろの方には軍艦も居ますがね、
あちこち挨拶して出るとこです。」
「あんなに始終つけて置かないのは、

〔この間、原稿数枚なし〕

永久におまへたちは地を這ふがいい。
さあ、海と陰湿の夜のそらとの鬼神たち
私は試みを受けよう。
[#地付き](一九二三ヽ八ヽ二ヽ)
[#改ページ]

  自由画検定委員


どうだここはカムチャッカだな
家の柱ものきもみんなピンクに染めてある
渡り鳥はごみのやうにそらに舞ひあがるし
電線はごく大《だい》たんにとほってゐる
ひはいろの山をかけあるく子どもらよ
緑青の松も丘にはせる

こいつはもうほんもののグランド電柱で
碍子もごろごろ鳴ってるし
赤いぼやけた駒鳥もとまってゐる
月には地球照《アースシヤイン》があり
くゎくこうが飛び過ぎると
家のえんとつは黒いけむりをあげる

おいおいおいおい
とてもすてきなトンネルだぜ
けむって平和な群青の山から
いきなりガアッと線路がでてきて
まるで眼のまへまで一ぺんにひろがってくる
鳥もたくさん飛んでゐるし
野はらにはたんぽぽやれんげさうや
じゅうたんをしいたやうです

お月さまからアニリン色素がながれて
そらはへんにあかくなってゐる
黒い三つの岩頸は
もう日も暮れたのでさびしくめいめいの銹をはく
田圃の中には小松がいっぱいに生えて
黄いろな丁字の大街道を
黒いひとは髪をぱちゃぱちゃして大手をふってあるく

鳥ががあがあとんでゐるとき
またまっしろに雪がふってゐるとき
みんなはおもて
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