吹かなかったのに、どうしたものか庭には柘榴《ざくろ》が一ばいに落ちておりました。そうして靴脱《くつぬ》ぎ石《いし》の上に鋏の大きな蟹が死んでいるのを見ると、学者たちを呼んでまいりました。
「かわいそうに、柘榴を椰子と間違えたのだよ。」と、一人が言いました。
「潰《つぶ》れてしまったけれど、まだ形だけは残っている。アルコール潰《づけ》にしよう。」
 可哀《かわい》そうな椰子蟹はとうとう瓶《びん》に入れられて、或《ある》学校の標本室に今でも残っております。



底本:「赤い鳥傑作集」新潮文庫、新潮社
   1955(昭和30)年6月25日発行
   1974(昭和49)年9月10日29刷改版
   1989(平成元)年10月15日48刷
底本の親本:「赤い鳥」復刻版、日本近代文学館
   1968(昭和43)〜1969(昭和44)年
初出:「赤い鳥」
   1924(大正13)年2月号
入力:林 幸雄
校正:鈴木厚司
2001年8月27日公開
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