兩親が生きてゐたなら、ライフはこんな危ないことをしなかつたゞらうにと云ふのだ。
けれども、彼はどうやらして、堅い足場を見付けて、又もや登りだした。今、手でもつて、と又、足でもつて――後戻りする、滑る、けれども、すぐに又しつかりと取付く。
下で立つて見てゐる人達は、お互がはら[#「はら」に傍点]/\してゐるその息づかひが、はつきりと聞き取れた。
と、先程から、ひとり寂しく、岩の上に坐つてゐた、一人のせいの高い娘が立上つた。此の娘はもう子供の時分から、ライフと許婚になつてゐた、彼は村の住民とは血族關係がなかつたのだけれど。
娘は手を高く上げて叫んだ――
「ライフ! ライフ! なんだつて、あんたはこんな事をするのよ!」
集つてゐる人々はみな娘の方をふり向いた。其處には父親が並んで立つてゐた。けれども娘はそれに氣がつかなかつた。
「降りて頂戴、ライフ! 私、あんたを愛してるわ。そんなところに登つたつて、何の徳もありやしないわ!」
ライフは思案してゐる樣子であつた。
それが一二秒つゞいた。
と又、登りだした。
彼の手も足もしつかりしてゐた。だから、長いこと、うまい工合に行つた。
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