けれども、程なく彼は疲れだした、さい/\休むやうになつたから。
 凶い前兆《まへぶれ》のやうに、一つの小石がころがり落ちた。其處に立つてゐる人たちは、彼がその下にとゞくまで、彼を目で跟けないではゐられなかつた。
 二三の者はもう堪らなくなつて、見てゐることができないで、行つてしまつた。
 娘だけが石の上に棒立に立つて、手を握りしめて、上の方を見上げてゐた。
 ライフは又もや手で自分の前をさぐつた。此の時、彼女は、突然此の手が外れたのを、はつきりと認めた。と、ライフはすばやく別な手で掴まうとした、が、それも又外れてしまつた。
「ライフ!」と、娘が叫んだ。
 聲が懸崖の上を越して高らかに響き渡つた。他の人達もこれに聲を合せた。
「あつ、辷つた!」
 みんなは叫んで、手をライフの方へ差上げた、男も女も一樣に。
 ライフは本當に辷つた。
 砂、石、砂利などがざら[#「ざら」に傍点]/\と、彼と一緒に崩れ落ちた。彼は辷つた、辷つた、だん/\速さをまして――
 人々は顏をそむけた。彼等は自分の背後《うしろ》に岩石の崩れる音を聞いた。間もなく何か重たい、塊《かたまり》のやうなものが、濕つた土にどしり
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