ぞといひふらした。けれども年寄達は、彼がそんなことを聲高に言ふのは感心できないと言つた。
 これが彼をのぼせ上がらせた。そこでまだ最適の年齡にもならないのに、早くも岩角の登攀を企てた。それは初夏の晴れた日曜日の午前であつた。青年たちは今日こそ直ちに計畫をやらなければならないといふのであつた。多くの人々が懸崖の下に集まつた。老人達はやめた方がよいと言ひ、若い者達はやるがよいと言つた。
 だが、ライフは只自分の望みにだけ耳を傾けた。だから鷲の雌《めす》が巣を離れるのを待ち構へて、一跳びに地上數尺の高さにある一本の松の木にとびついて、ぶら下がつた。此の木は岩の裂目から生え出してゐたので、ライフはこの裂目をよぢ登り始めた。小さな石が[#「小さな石が」は底本では「小さなな石が」]彼の足の下に崩れた。砂利や土塊《つちくれ》が轉がり落ちた。その音より外には深い靜寂。只遙かに川の流れが絶えず淙々と音を立てゝその河口へ注いでゐるだけ。
 懸崖はだん/\嶮しくなつた。長いこと彼は片手で下がつて、足で以て、足がゝりをさがしてゐて、よそを見ることはできなかつた。
 多くの者、とりわけ女たちは顏をそむけて、若し
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