竜宮の犬
宮原晃一郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)或《ある》田舎に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その時|鷹《たか》に

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)めい/\
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 或《ある》田舎に貧乏な爺《ぢい》さんと、婆《ばあ》さんとが二人きりで暮してをりました。耕す畑も田もないから、仕方なく爺さんは楊枝《やうじ》、歯磨《はみが》き、洗粉《あらひこ》などを行商して、いくらかのお銭《あし》を取り、婆さんは他人の洗濯《せんたく》や針仕事を頼まれて、さびしい暮しをつゞけてをりました。
 すると或年の秋も末になり、紅葉《もみぢ》が綺麗《きれい》に色づき、柿《かき》の実があかく熟《う》れて、風の寒い夕方、爺さんが商売から帰り途《みち》に、多勢の人が集まつて、何やら声高に罵《ののし》り騒いでをりますから、何だらうかと一寸《ちよつと》覗《のぞ》いてみますと、一羽の年寄つた牝鶴《めづる》が、すつかり羽をいためて其処《そこ》に降りてゐるのでした。集つた人達《ひとたち》はその鶴を捕つてやらうとしましたが、皆《みん
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