かと思ふと、誰《だれ》やらがトン/\と叩《たた》きます。
「どなたですか今頃《いまごろ》戸をお叩きなさるのは?」と、爺さんは睡《ねむ》い眼をこすり/\申しました。
「こちらでせう、慈悲心正助《じひしんしやうすけ》さんといふ方のお家は?」
「え、さうですよ、あなたはどちらからおいでになりましたか?」
「一寸、此処《ここ》を開けて下さい。さうすればお分りになります。」
 婆さんもその物音に目を醒《さま》しました。そして起きて戸を開けてみますと、吃驚《びつくり》して、思はずアッと言つて、尻餅《しりもち》を搗《つ》くところでした。といふのは、其処《そこ》には一|疋《ぴき》の竜の駒《こま》(たつのおとしご)の大きなのが、金銀、珊瑚《さんご》、真珠などの飾りのついた鞍《くら》を置かれ、その上には魚の形をした冠に、鱗《うろこ》の模様のついた広袖を着た美しい女が立つてをりました。
 お婆さんはすつかり驚いてしまひました。
「ぢいさん/\大変なものが舞ひ込んだ。お怪《ば》けが来た。早く此処へ来て戸を閉めて下さい。私は恐《こは》くて、もう足も腰もかなはない。」とお婆さんは呶鳴《どな》りました。
 お爺さん
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