しい、気高い十八九の美人が巻物を手にもつてそこに立つてをりました。白い真珠色の衣服《きもの》の袖口《そでくち》には、広い黒天鵞絨《くろびろうど》のやうなものでふちが取つてあつて、頭には紅《あか》い絹で飾りをつけてをりました。
「おぢいさん、おばあさん。しばらくでございましたね。」と、その女は懐しさうに申しました。お爺さんは不思議さうに、
「へえ、どなた様でいらつしやいますか、とんとお見忘れ申しました。どうぞ御免下さいませ。」と、ペコ/\頭を下げました。
 美人はにつこりしました。
「おやもうお忘れですか? なる程姿が変つてをりますから無理もありません。私《わたし》は一月前まであなたがたに飼はれてをつた鶴でございます。どうも命を助けていたゞいた上、なみ/\ならぬ親切なお世話を受けまして、ほんとに有難く思つてをります。実はあの時分王様のお猟にゆきあひまして、その時|鷹《たか》に羽をいためられましたが、やう/\あすこまで逃げて、田の中の畦《あぜ》へ降りますと、若い者に見付かつて、あぶなく殺されるところでした。そこへ丁度おぢいさんが来て助けて下さつたのでした。私は七夕様の織女でございます。丁度
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