》の夕方まで待つて下さい。」
 爺さんが言葉を尽して説くものですから、その人達も納得して鶴を爺さんに売つてしまひました。
 爺さんは「これは善いことをした。」と、嬉《うれ》しく思ひながら、その鶴をもつて家《うち》へ帰りました。
「婆さん/\。今帰つた。今日は売り溜《だめ》のお銭《あし》は一文も持つて来なかつたが、その代り迚《とて》も幾百両だしても買へない善《い》いお土産をもつて来た。何だか当てゝみなさい。」
 爺さんは鶴を入れた風呂敷《ふろしき》の包みをとかずに、かう言ひました。
「さあ何だらうね。」と、婆さんは小首を傾けました。「私《わたし》にはさつぱり見当がつかないよ。」
「これさ、この鶴だよ。」
 爺さんは風呂敷の中から、羽をいためたよぼ/\の鶴をそこへ出しました。鶴は驚いたやうな眼《め》つきでそこらを見廻《みまは》しました。
 婆さんは思はずアッと叫びました。
「オヤ/\爺さん、お前さんはマア気でもちがやしないか。鶴なんかを持つて来てさ。」
 爺さんはニコ/\して、
「気なんか少しもちがつてはゐない。これにはわけのあることだ。」と、それから自分が行きがかりにその鶴を救つて来たこ
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