しなさるな。いまにもつといゝものをあげるから、それよつかも、お前は大事なものを拾はない。あれ、あすこにおしやもじが落ちてゐる。あれが大変な宝だ。早く、こゝへ持つて来なさい。」
 そのおしやもじは、一方は焼け焦げになつてゐる汚ないものでした。吉ちやんは、馬鹿《ばか》らしいとは思ひましたが、何でも知つてゐる大黒様のいひつけですから、仕方がないから、拾つて別のポケツトに入れました。
「さあ、今度はちつと、遠くへ行かう。」
と、大黒様は言ひました。
「おい自動車、一万里の速力になつて、千里さきへ行つてくれ。」
「へい、畏《かしこま》りました。」
 自動車は、目にもとまらぬ速さで、プーンと空を飛びました。


    四

 千里さきは妙な国でした。
 そこでは、みんな人でも物でも逆さまになつてゐました。両足を天にあげて、もが/\さして苦しさうなのです。そして人は口々に、
「あゝ苦しい/\、助けてくれ/\。」
と、言つてゐました。
「どうしたんでせう、大黒さん、なぜあんなに逆さまになつて歩くんでせう。」
 吉《よし》ちやんはびつくりしてきゝました。
「こゝか。」
と、大黒様が申しました。
「こゝ
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