。」
吉ちやんは自動車にのりかけると、
「もし/\。」
と、呼びかけるものがありました。見ると、鳥居の根にポケツトの中に入れるぐらゐの、煤《すす》けた大黒様がありました。
「吉坊/\、お前わしを忘れちやいけないよ。わしを拾つていかなければいけないよ。」
大黒様は、かなりはつきりした声で申しました。吉ちやんは頭を掻《か》きました。
「あなたは汚ないね。取つたら、手がよごれるでせう。」
「よごれたつてかまはない。わしをポケツトに入れなさい。」
吉ちやんは困つて、竜の豆自動車にきゝました。
「どうだらう。大黒様をつれて行つたものだらうか。」
「さあ、どうでも。」
と、自動車は言ひました。
「あなたのお心まかせです。けれどもこの大黒様は、もう千年も年を老《と》つてゐますから、何でも物をよく知つてゐますよ。だからこの国を旅なさるんなら、つれて行つた方が便利です。」
「さう、ぢや仕方がない、つれて行かう。」
吉ちやんが大黒様を拾つて、ポケツトに入れると、手にも服にも真黒に煤《すす》がつきましたから、いやな顔をして、払つてゐると、大黒様はそつと頭をのぞけて、にこ/\笑ひ、
「そんなことを気に
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